電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

正義の政府はあり得るか?

以前『架空世界の悪党図鑑』の執筆に関わった時、「文学の中の悪党」の章で、敬愛する山田風太郎の作品から『妖説太閤記』(isbn:4062738953)の豊臣秀吉と『警視庁草子』(isbn:4480033416)の川路利良を取り上げたが、本当は、風太郎作品からのチョイスならぜひ『明治断頭台』(isbn:4480033475)の香月経四郎を取り上げたかった。
だが『明治断頭台』をネタバレ抜きに説明するのは無理なので、やむなく見送った。
この作品の主人公、香月経四郎は、明治の初期に置かれた弾正台の官吏である。弾正台は役人の不正を取り締まる部署で、検察官と裁判官と刑の執行官の権限をあわせ持つ。香月経四郎は、一見軽薄そうな青二才ながら「正義の政府を実現する」という強い意志に従って、数々の役人の不正を暴き、次々とギロチン台へと送るのだ。
香月経四郎が日本へ持ち込んだギロチン台は、フランス革命後、正義と理想にトチ狂った革命政府が、数々の「反革命」腐敗分子を処刑するために使った道具である。
香月経四郎の捜査と処断の手際は素晴らしいものなのだが、じつは最後にとんでもないどんでん返しがある。これは、バラすとつまんないから興味のある人は一読して欲しい。
この小説の最終章のタイトルは、ずばり「正義の政府はあり得るか」である!
香月経四郎は、『ガンダム00』の主人公セイエイより、『デスノート』の主人公夜神月に近いというべきだろう。(死)神の力を使って力づくで正義と理想を実現しようとした夜神月は最後には「新世界の神」になり損ねて破滅するが、香月経四郎も最後は破滅する。不正役人の首をちょん斬り続けたものの、自分のやっとることは、ただの恐怖政治に過ぎないのではないか、という絶望心理に陥るしかなかったからだ。
まあ『ガンダム00』は地上波で夕方やってるアニメであるから、主人公セツナが夜神月や香月経四郎のようになる可能性は低いだろうが、せいぜい、(それで腐女子に人気が出るかは不明だが)空想的平和主義をホザくヘタレと化したりせず、私怨で殺気ギラギラを貫いてくれる事を支援するばかりである。