電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

2015年の中東

フランスでイスラム教を風刺した漫画家が、赤報隊事件のようにテロられた件について。
もしこれを日本に置き換えて、皇室の先祖とされる「古事記」や「日本書紀」の神々がフランスで下品に面白おかしく描かれたら、わたしは大して愛国心の強い人間ではないが、それでも何かイヤだな、と思った。
フランス人にとっては、自国の宗教であるカトリックも他国の宗教も等しく風刺の対象とすることが公正な中立的態度ということであるらしい。
しかし、だからといってフランス人から日本古来の神々をコケにされれば、その背後には「自分たちは文明国」と気取る白人先進国が、アジアの有色人種の国のローカルな信仰を野蛮な風習としてバカにしているような態度を感じ取らずにいられないだろう。
確かに、天照大神の田畑に糞尿をまき散らしたスサノオだの、何人嫁がいるんだと突っ込みたくなるオオクニヌシだの、「古事記」や「日本書紀」の神々といえばいろいろデタラメである。だが、日本人がみずからそれを茶化すのと、外国人が笑い物にするのとではまったく意味が違うだろう。
そういう想像力でイスラム教徒の立場に立って考える人はどれだけいるのか?

「あれは僕らの仲間じゃありません」

――などということを考えていたら、イラクではわたし(佐藤賢二)と名前が一文字違いの方が亡くなった模様。
後藤健二は在日」と信じたがっている人間は、同じ日本人を見殺しにした後ろめたさを直視したくないため、「後藤健二は【僕らの仲間じゃない人間】」と言ってるだけだ。
この【  】の中に入るのは、別に「在日」ではなく「地球人に化けたバルタン星人」でももなんでも可。これが英国だったら【  】には「アイルランド人」が入り、インドなら「不可触カースト」が入り、戦前のドイツなら「ユダヤ人」が入り、トルコやイランでは「クルド人」が入るんだろうな。
要は「後藤健二を見殺しにしたことを正当化できる理由」が欲しくて、後藤健二は僕らと同じ日本人ではないと言ってるのだろうが、在日なら同じ日本民族ではないから助けなくて良い理屈になるのか? 日本で生まれ、日本国籍を持ち、日本の行政機関に納税している人間なら人種民族を問わず日本人だろ?
英国なら、親が人種民族的にはインドなど旧英領のアジア・アフリカ諸国出身でも、当人が英国内で生まれ、英国籍を持ち、英国の行政機関に納税している人間なら英国民と見なされるだろうし、フランスなら、親がアルジェリア出身のイスラム教徒でも、当人がフランス内で生まれ、仏国籍を持ち、フランス行政機関に納税しているなら同様にフランス人と見なされるのではないか(だから少数派のイスラム教徒フランス人も多数派のルールを勝手に適用される)。

外れて欲しい予見

ところで、一説によれば、渦中のIS(イスラム国)は多様な外国人義勇兵を集めた結果、内部分裂も激しいとの模様。
一個人的には、IS自体よりもISが片づいたらクルド人勢力はどうなるのか? という問題の方が興味ある。ISが崩壊したら、クルド人義勇兵らはその実効支配地で「クルディスタン共和国」の独立を宣言するかも知れない。
欧米にはクルド人に心情的に味方する人が多そうだが、アメリカやEU各国の政府はクルド独立国を承認するのか? トルコやイランをはじめ中東各国は反発しそうだ、それらの国々の機嫌を損ねないため国家承認しないという国も少なくないかも知れない。
そして、今は「IS打倒」で一致団結しているクルド人勢力も、イラク、トルコ、イランやその他の中東各国からの寄せ集めの集団だ。アフガニスタンから旧ソ連が撤退したあと、アフガン義勇兵の間で熾烈な内ゲバが起きたのと同じ途をたどるのだろうか? 何しろ、同じクルド人といっても、イラク系、トルコ系、イラン系で随分言葉も習慣も違うらしい。
とりあえずわたしは「クルディスタン共和国が成立したら紙幣はやっぱサラディンの肖像になるのか? だったらちょっと見てみたい」などと期待しているのだが……。