電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

米朝開戦を「正しく怖がる」試論

「今回は大量の難民、覚悟しなきゃ」麻生副総理
2017年10月14日16時33分
http://www.asahi.com/articles/ASKBG4JXFKBGOHGB009.html

もし米朝開戦となれば、日本に北朝鮮ないし韓国から難民が流入する可能性は充分にある。だが、1950年の朝鮮戦争当時とまったく同じような事態になるかはわからない。
北朝鮮からの難民発生の場合の流入

  • 韓国(陸路/地雷原・武装地帯あり)
  • 中国(陸路/部分的に渡河が必要)
  • ロシア(陸路/部分的に渡河が必要)
  • 日本(海路/最短で400km以上)

韓国の釜山〜対馬ならゴムボートでも渡航可能だろうが、北朝鮮から日本海を越えるにはそれなりの大型船がなければ無理だ。北朝鮮から難民の大多数は、まず中国かロシアか韓国に向かうのではないか?
http://www.jmc.or.jp/images/gsimap.jpg
EU圏への中東難民の流入も基本的には、シリア→トルコ→ギリシャ、と陸路である。
武装した難民を意図的に送りつける偽装難民工作員によるテロも、可能性としては充分にありえる。だが、北朝鮮にそれを大々的に行う力があるかは疑問がある。
北朝鮮と自国の二国だけしか視野に入れてないと見落としがちだが、実際には北朝鮮は日本だけを相手にしているわけではない。
米朝開戦した場合の北朝鮮にとっての警戒優先度

  • 南北国境の防備(在韓米軍の陸路北上)
  • 首都平壌の防空(爆撃、ミサイル攻撃対策)
  • 沿岸の防備(韓国・米国海軍の艦砲射撃、潜水艦ミサイル攻撃対策)
  • 中朝国境の防備(中国が米国と手を結ぶ可能性への対策)

日本は島国だから陸続きで敵の陸軍が殺到するという想像力がないが北朝鮮にとって最大の脅威は在韓米陸軍の北上である。
防衛白書』によると、北朝鮮の兵力は約100万人で、韓国軍、在韓米軍、自衛隊在日米軍を全部足した数より多い。
http://www.mod.go.jp/j/publication/wp/wp2017/html/n1120000.html#zuhyo01010201
ただし、北朝鮮の総人口は約2516万人ほどで、韓国の半分しかない。銃後の生産力などを含めた国力全体を考えると、防戦で手いっぱいだろう。
日本への破壊工作はあり得るが、南北国境の防備、首都平壌の防空に比べれば、優先順位はかなーり低いはずである。しかも、状況によっては中国が裏切る可能性まである。小規模の工作員在日米軍自衛隊を攪乱できるかといえば、効果も低そうだ。
では、いきなり日本の大都市に核ミサイルを撃ちこむかといえば、そんなことをすれば、大事な金ヅルの朝鮮総連関係者まで大量死する。金日成時代ならともかく、豊かな日本の生活に何十年も首まで浸かった今の総連関係者が、核ミサイルを撃たれても喜んで金正恩のために死ぬかといえば、いまいちビミョーな気がする。
もし日本国内の総連関係者が本気で逃げ出す兆候を見せれば本当に危ないが、それはとっくの昔に日本の公安も考えてるはずで、総連を見張ってるだろう。
では次に、北朝鮮ではなく韓国から避難民が殺到する可能性はどうか。
●韓国からの難民発生の場合の流入

  • 日本の福岡(最短コース)
  • 米国(有産階層は一足飛びに米国亡命しそう)
  • オーストラリア(現時点では北朝鮮ミサイルの目標外)
  • 台湾(米中正面衝突にならない限り日本よりは安全)
  • 中国内(中朝衝突はないと判断できる場合)

先に触れた麻生太郎副首相の言葉は、朝鮮戦争が起きた1950年当時、韓国にもっとも近い福岡にいた体験の重みがある。韓国からの脱出者は一定数、釜山から福岡に殺到するだろうし、そうなれば一時的にであれ、難民キャンプが必要になるだろう。
ただし、1950年当時とは異なり、現在の韓国民のGDPなら逃亡先は複数選択肢から選べる。一定以上の富裕層は、日本ではなく一足飛びにアメリカかオーストラリア、あるいは確実に北朝鮮のミサイルの射程外の南米だか欧州だかに逃亡するのではないか。
日本に逃げても、核ミサイルの射程範囲という意味ではぜんぜん安全ではない。となれば、ひとまず日本に流入した難民も、可能な限りもっと遠くの国へ逃げたいだろう。一回転した発想で、中国こそ安全と考える人間も少なくないかも知れない。