電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

今日では理解不能な、右翼とパンクとヤクザが相性良い理由

相変わらず仕事のため戦争映画のヴィデオやDVDばかり観ている。
で、前から、新宿TSUTAYAの日本の戦争映画のコーナーに置かれていて、氣になってしょうがなかった『特攻任侠自衛隊』ついでに借りてくる。
ビデオパッケージを見て、これはとんでもない怪作ではないかと思っていたが、いや実際、怪作だった。凄い。
大まかなあらすじは、北方の蛮国「ケロス」との漁業摩擦が激化し、自衛隊内「ケロス」派工作員のクーデターを抑えるため、討伐部隊が編成されるが、非公式の作戦ゆえ、暴力団団員が臨時に自衛隊に入隊して、訓練を受け、速成コマンドとして活躍……とかそんな感じ。
と、書くと、『愛国戦隊大日本』のようなイロニーに基づくふざけた作品と思われそうで、実際そのような側面はあるが、いや、王道のATG的(?)70年代アングラ映画だった。
主人公は、とにかく頭は悪いが義侠心には篤いボンクラの三下ヤクザで、それが、同様のボンクラ揃いの特殊部隊に入隊し、頭のおかしそうな隊長(これは『独立愚連隊』を思わせる)の下、厳しい訓練に耐え、戦友とは喧嘩と酒盛りに明け暮れながら、ヤクザなりの愛国心と使命感のようなものに目覚めてゆく……昨今の若いネットウヨと言われるものは、よく理解はできても1ミリも同感しないが、こういう、社会のはずれ者が、平穏な社会に生きるチャラチャラした連中を尻目に、国家や民族の旗への帰属心に燃え、軍隊に存在意義を見出し、英雄になろうとするとかいう姿(長渕剛メンタリティ)は、嫌いでない。
とにかく、白黒で画像が荒いのもさることながら、役者の顔がいい。バカ映画であっても、ヤクザを演じている出演者がみなちゃんと昭和の百姓日本人の顔をしている。現代でも、こういう70年代的アングラ風をわざと狙った作品が作られることはあるが、役者の顔で既にこういう雰囲気は出ない。それにしても、主題歌の「悪魔巣取金愚」というのが凄い「アクマストーキング」だぞ!(どうやら大槻ケンヂがカバーしてるらしいが)
――さて、物語終盤、激戦の末に敵反乱部隊を倒した主人公たちは表彰を受けるわけだが、元戦災孤児の主人公は、日の丸と並べて掲げられた星条旗に敬礼しない。危険な任務を正式の自衛官ではなく敢えてヤクザの速成傭兵にやらせた自衛隊のお偉いさんは、日米安保あっての日本だと語るが、主人公は、ケッしゃらくせえと言って去る。と、自衛隊基地を出たところで背後から銃声、鉄砲玉はもう用済み、というわけだ。
ラスト、手負いのまま、廃ビルの上から自衛隊員に何事かを訴えようとするが、地上からそれを見上げる自衛隊員たちは笑って見てるだけ(これは明らかに市ヶ谷の三島由起夫のイメージだ)、何も言えずに悲痛な叫びとともに、映画はいきなり完、である。
……よく考えてみたら、『凶気の桜』のラストと同じ。まあ、日本的テロリストの描かれ方としてはこれが王道。『仁義なき戦い 広島死闘編』も似たようなものである。
ハッキリ言って『攻殻機動隊SAC2」に見事に欠落してたのは、こういうセンスであった。5.15事件を基に「個別の十一人」なんて設定を出して日本的テロリストを描こうとしたくせに、ただの外見の耽美的オリエンタリズムしかない。せっかく押井守が携わってたってのによぉ。『紅い眼鏡』では、同じく「鉄砲玉はもう用済み」となった主人公(千葉繁)の、ラストの「待っていたのは俺だけだ、撃てぇ!」って叫びとか、悲痛で良かったのに。