電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

嫌韓厨につける薬・仮案

いや、冗談抜きに、こういう一元的視野の世界観認識に囚われた人間は少なくない。
その例のひとつが、いわゆる嫌韓厨ではないか、と思う。
嫌韓論者の何が問題かというと、彼らの多くはほとんど日韓関係(日本国(=自分)を肯定すること)にしか興味がないことである。
嫌韓厨は「韓国ほどヘンな国はない」と言う。なるほど、韓国の反日感情は異様である。
が、しかし、この程度の、隣国に異様な敵意を燃やす国など、世界中にある。
日韓関係ばかりにこだわる人間は、せめて一週間でいい、ちょっと日韓関係についてばかり考えるのを止めて、インドとパキスタンの対立関係についてでも、あるいは旧ユーゴスラヴィア諸国でのセルビア人とクロアチア人の対立関係について、はたまたアフリカ中部のフツ族ツチ族の対立関係ついて考えてみてはどうか?
日韓関係など、(間には海だってあるし)全然まだしもマシだと気づくはずだ。それこそ、蒙古族が世界には中華以外にもおいしい物はいくらでもあると知ったようにw

工藤 私もヨーロッパで暮らしていて、聞こえてくるのは隣の国の悪口ばかりでした。接触が多いからこそ喧嘩になるってことがあるんですね。
木村 いくら教育しても近くの国に対する偏見はなくなりませんね。
柴 チェコポーランドは、そういう関係ですね。
工藤 ああ、チェコポーランド、すごいでしょう、お互いに悪口を言い合って、こちらが頭痛くなるくらい。
木村 ポーランドハンガリーはわりと仲が良いんですね。(中略)ポーランドハンガリーの間にはチェコがあるからですよ(笑)。
(中略)どうも遠い国については、いくら宣伝しても「敵イメージ」は定着しにくいそうです。ドイツのアメリカ・イメージがそうなんで、ドイツにとってアメリカが第一次、第二次大戦ののときの敵であっても、アメリカのイメージは悪くない。
長沼 やはり「遠交近攻」ということですかね。
『世界の歴史 26巻 世界大戦と現代文化の開幕』
木村靖二,・柴宜弘・長沼秀世(中央公論社)付録座談会

(↑できれば該当地域の地図を見ながらお読みください)
そういえば日本も、草の根レベルでの嫌韓、反中意識は強いのに、反米意識は弱いな。
逆に言えば、アメリカとすぐに接するキューバや一部中南米諸国の国民の反米意識は半端ではない。
おそらく、パキスタンの嫌印厨は、自国とインドの関係にしか興味がないだろうし、セルビアの嫌クロアチア厨は、自民族とクロアチア人の関係にしか興味ないのではないか。
んが、多くの日本人にとっては「インドとパキスタンってどう違うの?」「セルビアクロアチアって何が違うの?」「フツ族ツチ族ってどう違うの?」マジわかんない、というようなレベルであろう。でも、当事者は真剣だ。
日韓関係も、無関係な国々から見れば、その程度のものであろう。
広い世界地図を眺めながらそう考えたら、隣国のことしか考えないなんてアホらしくならない? と言っても、やっぱり隣国のことしか考えられないのが、もともと遊牧民だったジンギス汗時代の蒙古族ならざる大多数の凡庸な定住民族なんだろうけどね。
(まったくの余談だが、ジンギス汗時代のモンゴル族が強かったのは、どうやら、彼らが定住民族ではなかったことと関係あるらしい。遊牧民である蒙古族の軍隊は、全員が騎兵であり城攻兵であり、とにかく兵の均質性、統率の一体感が非常に高かったという。
これに対し、当時の西欧などの定住民は、国王−貴族・領主−騎士−農地を耕す領民、という階級構造をもち、馬に乗るのは貴族と騎士だけ、領民は戦時だけ徴用されて単純な歩兵戦闘しかできず士気も低い、あとは雇われの傭兵……これでは統率の均質性も低くなる。
もっとも、戦に勝てても統治できなければ意味ないわけで、蒙古人は征服対象には最初にさんざん暴威を振るったあとは、基本的に現地の制度を存続させる方針だったらしい。西アジアの征服地では、元朝の方針と逆に、イスラム化した蒙古人も多かったそうである。
逆に言えば、なまじ世界文化の多元性を知っていて相対的視野を持っていたがゆえに、自分たち自身がキリスト教イスラム教や中華思想のような強固な一元的支配文化体系を築けなかったのが、蒙古民族の弱点だったのかも知れない)