電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

追悼に代えて

かつて、2005年6月に雑誌『TONR』第2号(https://www.fujisan.co.jp/product/1281681338/b/85569/)の特集記事のため、脚本家・上原正三氏の取材に行ったときのエントリからいくつか再録。

■上原インタビューこぼれ話少々
・『TONE』第2号の特集タイトルは当所「日本の戦争」だった。
そんで力の入った取材企画書と取材依頼文を書いたのだが、円谷プロ経由で依頼を受けてくださった上原氏は、取材当日の最初のお言葉が「今日は何の取材ですか? ウルトラマンのお話ですか?」でした(苦笑)。
・身内の絆を絶対とするような作品を多く書いてる上原氏だが、沖縄は大家族主義で血縁の付き合いが濃いので、帰省の際はお土産買ってくのが大変だという(でも、やっぱりきちんと買っらっしゃるんだな)。その反動か、ご自分のお子さんには放任気味で、ご長女はアメリカにいるそうで。
・そういえば『宇宙刑事』シリーズでは、当時普及したばかりのパソコン通信、ネットショッピングの先駆けなどを取り上げ、悪の組織がそれを利用して人間を堕落させる、といった「便利な物に騙されるな」というメッセージをこめた、資本主義快楽社会批判みたいな作品を多く書いてましたね、と話を振ったら、照れ隠しなのか「そういう新しい物はわかんないから、悔しくてやるんですよ(笑)」とのご返答。
今では脚本や原稿はパソコンで書いてるが、基本的にはITは苦手で、昨年放送の『ウルトラQ Dark fantsy』中の「ガラQの大逆襲」で、セミ人間に仕業で知らない間に自分がハッキングを行った事にされてた、というエピソードなどは、本当に自分の恐怖感が出ていたらしい。

 

 

■怪獣使いの証言
『TONE』誌のインタビューでは、上原氏の手掛けたヒーロー作品の話より、上原氏の戦争体験と、沖縄問題についての見解を聞くことをメインに努めた。
(最後の方じゃ、俺の好きな作品の趣味的な話も聞いたけど)
それでも唯一、上原氏の方から振ってきた自作品の話が『帰ってきたウルトラマン』第33話「怪獣使いと少年」の話だった。
畏友ばくはつ五郎こと河田氏(id:bakuhatugoro)が笠原和夫に着目する一方、わたしがなぜ上原正三氏に話を聞こうと思ったかというと、20年ばかり前、雑誌『宇宙船』のインタビューで、同氏が「沖縄から本土を見ている視点が、宇宙人の視点で地球を見ている、という感覚を描くのに役立った」と語っていたのが、強く印象に残ってたからだ。
彼は星から来たウルトラマンと同様「みんな」の外から来た人物だったのである。
上原作品では『帰ってきたウルトラマン』に限らず、『イナズマンF』でも『宇宙海賊キャプテンハーロック』でも『バトルフィーバーJ』でも『宇宙刑事シャリバン』でも、自分が生き延びるためやむを得ずであっても仲間を裏切った人間は、また、例え主人公の友人あっても一度でも私利私欲のために悪の組織の誘惑に負けた人間は、必ず罰が下って死ぬ、という話ばかりが繰り返し描かれている。
そんな脚本を書く御仁だから、俺のようなどっちつかずのコーモリ野郎には覚悟が必要かなあ、と思えば、存外に物腰がサバサバとしたお方だったので安堵したが、そのサバサバした感じは、どうやら「俺は所詮異邦人」という覚悟の産物ではないかと思われる。

 



■この上原作品が凄い
・取材前に上原脚本作品を数本観返したメモから
●『帰ってきたウルトラマン』(第一話「怪獣総進撃」)
・アーストロン出現
 逃げ遅れた村の娘、下敷きになった祖父の側から逃げようとしない
「おじいちゃんと一緒じゃなきゃやだー!」(そこを郷秀樹が助ける)
(→現代の作品なら祖父が「わしに構うな」と言って娘は泣く泣く逃げそうだが
「一人だけ逃げる」という発想が寸毫も無く「死ぬ時は一緒」思想が徹底)
●『帰ってきたウルトラマン』(第五話「決戦!怪獣対マット」)
・MAT本部で、早急にツインテール攻撃を命じる長官とのやり取り
 郷「逃げ遅れた人間が5人、地下に閉じ込められています」
 長官「東京都民一千万人の命を守るためだ。この際5人のことは忘れよう」
 (→「東京都民一千万」を「本土」に「5人」を「沖縄」に替えて考えると…)
 郷「5人も一千万人も、命に変わりありません!」
 長官「長官の命令に背く者はどうなるか、知っておろうな?」
 長官の前でMATのバッジを外して、MAT司令室を出てゆく郷
 (→映画「2/26」のラスト青年将校たちが階級章をはぎ取られるのの逆)
 長官「なぁに、いざという時はウルトラマンが来てくれるさ、ハハハ」
 (→結局、在日米軍任せかよ)
 すかさず司令室を出て郷に一人でつっこむMAT上野隊員
「お前何のためにMATに入った? MATに入って何をしたっていうんだ?
 帰るところがあるからって、これじゃ無責任すぎるじゃないか!?」
 その後さらに、単身アキの救助に行く郷を手伝いに来た上野隊員
「俺はお前のように帰るところがない、だからMATに賭けてるんだ」
(→郷と上野の違いは、まるで応召軍人と職業軍人の違いに見える)
●『イナズマンF』(第12話「幻影都市デスパーシティ」)
・デスパーシティのサイボーグ兵士要員ハント
「いやだー、助けてくれー」と叫びながら走ってくる少年
 追ってくるデスパー兵士と、デスパーシティ市長サデスパー
「ここでは15歳になるとみんなサイボーグにされてしまうんです」
(→まるで徴兵じゃねえか)
・デスパーシティ内部の協力者の弟
 (実は裏切ってイナズマンをデスパーに密告していた)
「俺はデスパーシティの外に出たかったんだ?」
 (上原氏が『七人の刑事』用に考えていた幻のシナリオ腹案「パスポート」(米軍占領下当時の沖縄から出たかった若い男の話)とそっくり)
●『宇宙刑事シャリバン』(第42話「戦場を駆けぬけた女戦士に真赤な青春」)
・ダム地下の秘密基地に向かう伊賀電と、同志のイガ星人戦士のベル・ヘレン
 ダムの上で思いつめた顔の婦人(実はレイダーの刺客)を見かける
 基地に来て
 伊賀電「いいかいヘレン、俺以外の人間に、あのドアを開けちゃいけないよ」
 伊賀電が去ったあと、ダム上をモニター監視するベル・ヘレン
 さっきの婦人を「自殺するつもりじゃ……?」と飛び出してしまう
 謎の婦人が男と一緒に写っている写真を見るベル・ヘレン
 ヘレン「どなたかここで(亡くされたんですか)?」
 謎の婦人「このダムの建設に関わって、豪雨の時に見回りに……
 強引にでも、引き止めれば良かった……」(まるで戦争未亡人のようだ)
 (一瞬、オーバーラップする、ヘレンの同志が殺された場面の回想)
 結局、不意打ちにやられてしまうベル・ヘレン
 助けに来たシャリバン
 ヘレン「シャリバン、ごめんね…」
(→洞窟みたいな場所で、篭もってないといけないのに、人を助けるつもりで
 当人は良かれと思って出て行って、死ぬ、というパターン)
――まあしかし、ご興味を持たれた方は、上原氏自身の著書『金城哲夫 ウルトラマン島唄』(https://www.amazon.co.jp/dp/4480885072/)と切通理作怪獣使いと少年』(https://www.amazon.co.jp/dp/4800306159/)をご一読されるのが一番お勧め。

 


上原氏にはその後、東日本大震災の記憶も生々しい時期の2011年夏、月刊『ヒーローズ』の創刊準備号のため再び取材した。このときも、琉球人としての「外部からの視点」を強調し、均質化して海外に向けない現代日本人への違和感や、琉球と同じく歴史的には日本の僻地だった東北へのシンパシーのような意識を語っていたのが印象的だった……。
――思えば、わたしがなぜ特撮オタクなのかといえば、小さいころからずっと、人類に殺される怪獣ゴジラや、左右非対称の醜い人造人間のキカイダーや、『ウルトラマン』で地球の人々に見捨てられた恨みの炎を放つジャミラや、『帰ってきたウルトラマン』の「怪獣使いと少年」で市民に袋だたきにされるメイツ星人などなどの姿に、人間社会で疎外される者の影を見てきたからだ。
そこから、単純な善悪で割り切れない世界、差別される者の孤独と悲哀を感じ取った人間は、きっとわたし一人ではないはずだ。
そんな感性を忘れない「昭和の子供」を作った一人が上原正三だった。
――ありがとうございました。