電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

Jヤンキーの愛国心 『凶気の桜』

反米とか右翼とか憂国といえば、今さら、前から気になってた『凶気の桜』(主演:窪塚洋介/監督:薗田賢次)やっと観る。井上三太の漫画みたいなJスキンヘッドだけど古典東映ヤクザ映画のテイストを踏襲。少々極端だが、こういう心性の若者、現実いてもおかしくないとは思った。
主人公たちは、戦前日本なら関東軍皇道派ナチスなら粛清された突撃隊だ。「大人」の地元任侠右翼の保護を受けつつ、街の不良を狩ってた彼らが敵対ヤクザに手を出してしまうと、そのまま戦火拡大に踏み切り彼らを鉄砲玉にする大人たち――この構造は満洲事変〜大東亜戦争当時の日本軍の図式か? 窪塚演じる山口が親父のように尊敬してた、原田芳雄演じる純正右翼の青田は「偽者」を自称、そう青田は実は在日だった、という真相は痛烈。いや実際こういう話、多かったと思う。極真空手大山倍達を見よ、会津小鉄高山登久太郎を見よ、「従来の右翼団体は日本を貶める在日の陰謀」とか言うネットウヨ笠原和夫とか猪野健治の本を読んでほしい。
黒髪大和撫子の郄橋マリ子だけは少々白々しいが、こういう不器用真面目男の理想像?が出らんと話にならんのか。若い不器用だがまじめな右翼青年に理解ある女、ってんなら、一見あばずれたようで純情な年上の飲み屋の姉ちゃんみたいなの方が納得できる、で、未亡人だったり、実は在日だったり……ってこれじゃ笠原和夫まんまか。
一部で「日本右翼なのになんでヒップホップ流すの?」というツッコミが入ってたが、ヒップホップ文化は支配階級白人に対するアメリカ黒人の有色人種ナショナリズムの産物、反米反白人愛国者がそれを好むのは矛盾とは思わんが。日露戦争後、東郷平八郎元帥はロシアの脅威に面してた当時のフィンランドやトルコでも英雄扱いになり、日本人は反ロシアでポーランド人のピウスツキー元帥も英雄と見なしたんだし。
実は今夏たまたま横浜レゲエ祭(実質、Jヒップホップのイベント)の雑用スタッフを一日手伝った。「♪ラディンはテロリスト ブッシュもテロリスト 俺たちもテロリスト でも俺らの武器は音楽 これで革命を起こす」なんて歌ってるのは牧歌的なシラカバ派だなあ、ぐらいに思ってたが、出演者が客席に「ゴミは拾って帰れよーっ!」とか叫ぶと、イベント後、ゴミ拾いに協力する客がいたりしたのは、真面目に、バカにできんと思った。こういう心性は古典的なヤンキーの美点だ(恐らく口だけの「ネットウヨ」はこういう人たちをドキュン珍走団センスだと馬鹿にして嫌いそうだが)、わたしは、実際あんまり友だちにはなれそうにないけど、こういうのを絶対バカにしたくない。
ひとくちに右傾化だのぷちナショナリズムだのと言われるが、憂国者の中でもさらに階層と志向の違いは今も微妙に存在し、ある面じゃ、そうした「ウヨ内ゲバ」状況ゆえに単純左翼が言うように世が軍国主義復活ファシズム一色にもならないのだろう。
窪塚が一瞬、仮面ライダーV3に変身するのは笑ったが、うっかり天下を憂える青年の、時に単純な子供じみたヒロイズムも掘り下げて良かったかも。赤軍派も「われわれは『あしたのジョー』だ」つってるし。これバカにしてんじゃなくて。