電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

9.『雲形の三角定規』

ゆずはらとしゆき:著(isbn:4575237701
90年代の漫画業界を描いた青春小説。いわば団塊ジュニア世代のオタク版『まんが道』。
主人公やその友人は、高田馬場の専門学校に通い、落合の古い木造アパートに住み、『ロケット』という名の雑誌に寄稿……と、どういう偶然かわたしの20代にそっくり(笑)
「そもそも、独立独歩のフリーランスである漫画家稼業には、<デビュー>という出発はあっても、<就職>という安定はない――」(158p)、というフレーズは、わたしは漫画家ではなく文字書き業ながらも身に迫ること甚だしい。
本書はフィクションだが、90年代以降に進行した、コミケの同人誌あがりの漫画家のプロ化、アニメのコミカライズをはじめとするメディアミックスの影響の描き方などは充分に歴史証言となりえそうだし、一部の出版社や漫画家のモデルもなんとなく思い浮かぶ。
とはいえ、主人公たちが、同業者間の嫉妬、編集者のえこひいき、大物作家のアシスタントに使われ続ける苦労などに直面して、すっかり漫画業界に疲れて嫌気がさしてるようなラストは物寂しい。前記のような目にあってもなお漫画業界に残ろうとするのは、生活のためとか、ほかに職能技術がないからという即物的理由だけでなく「それでも自分が漫画を描くのが好きだから」って人なんじゃないの? というのはキレイゴトですかね。