電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

邪説「シベリアのマレビト」妄想

先日ナポレオンについてちょっと書いたあと思い出したのが、数年前『トロツキー自伝』を読んだ時に頭に浮かんだ感慨(ナポレオンのデッドコピーといえばヒトラースターリン、というのが定説だが、政治指導者というより軍事指導者としてのイメージでは、案外トロツキーの方が近いかも知れない)
トロツキーは、ロシア革命後、ロシアの地方各地に点在する白軍(帝政軍残党)とこれを支援する外国軍との戦闘(国内戦)の期間、約二年ほど、装甲列車というものに乗って、シベリアを西から東へ、東から西へ、実に地球を数周する程の距離を走破して督戦に当たった。
ロシアは広い、共産軍は一応革命に勝利したとはいえバラバラだ。西で共産軍が武器も食料も尽きて危機だという、するとトロツキーの列車が駆けつけて救援物資を与えて励ます、東では現地住民が白軍支持だという、するとトロツキーの列車が駆けつけ熱弁を奮って革命精神を煽る、と、白軍で劣悪な労働条件下で働かされていた将兵が、感涙にむせいで共産軍に寝返る(が、その後、より酷使されるわけだが…)と、そんなことをやってたらしい。
この暴力的ロマンチストの自伝は、紛れもなく20世紀初頭を代表する最高の冒険小説のひとつだと思っているが、この書を最初に日本語訳したのは、三島由紀夫の親友、澁澤龍彦だった――という事実は、昨今の若いまじめ右翼には理解不能なんだろうなあ……
言うまでなく、ロシア共産党ボルシェビキは、革命直後から、現実をわかってない党幹部の横暴により、人民粛清の秘密警察独裁政治を行い、多くの無辜の民を弾圧した。
トロツキーユダヤ系地主の息子で、優れた頭脳の持ち主ながら、ついぞロシアの土着の民百姓の心情というものを理解してなかったらしく、半ば夢想的な自分の理論の正しさをゴリ押しして煙たがられ、遂に国外追放に遭った。
が、少なくとも国内戦の一時期、そんなトロツキーが、マルクス以前に文字もロクに読めなかったろうロシアの土着民に、うっかり本気で支那の民百姓にとっての水滸伝三国志の侠客義士のように、おらが英雄と思われてしまった一面があるのではないかと想像する――こんな感じだ(以下は板垣恵介が『餓狼伝』で「力道山の金玉を潰した猪木」を描いたような、妄想解釈の創作である ←って、却ってワケわからん説明か……)