電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

5.ルポ『戦争中の暮しの記録 保存版』

暮しの手帖編集部(isbn:4766001036
本物の戦争経験世代が次々と亡くなる中、大東亜戦争大義だの大局視点の政治思想論ではなく、庶民の実感として戦争はどうだったという視点は急速に忘れられつつある。本書は、NHKの朝ドラマで注目が集まった花森安治の仕事の一つだが、終戦から20数年の時期に集められた「普通の人の戦争体験」の集大成だ。
東京大空襲のあと家が焼け残った人が、「なまじ家があると肩身がせまい。早く焼けてくれりゃいい」と妙な罪悪感を覚えたという話(74p)、イモばかり食ってる疎開先で白米の弁当を持ってきた児童が「制裁」されたという話(132p)、戦局が激化した時期、戦地の兵士と苦労を分かち合うため児童にはだし登校が課された(179p)という話(当然ながら、内地の小学生がはだしで登校したって敵兵は一人も死なない)などは興味深い。
要するに、直接の戦災より「みんな苦労してるのに楽をしてはいけない」という同調圧力の空気が相当に重かったことがうかがえる(一方では、空襲で焼け出された一家に周囲の人間が食料や家財を分けてやったというような「いい話」もあるけれど)、この手の「ぜいたく狩り自粛要請空気圧力」みたいなものは、2011年の東日本大震災後などをふり返ると、平成時代もあまり変わらん気がしてならない。