電氣アジール日録

自称売文プロ(レタリアート)葦原骸吉(佐藤賢二)のブログ。過去の仕事の一部は「B級保存版」に再録。

2004-01-01から1年間の記事一覧

成長物語に必要な要素 『鋼の錬金術師』『忘却の旋律』

上記の感慨の根拠の一つが『鋼の錬金術師』。主人公兄弟が、錬金術の失敗で生身の肉体を半分失った異形の人外の境界の者ってのは古典的だなあとか、死んだ母を甦らせようとして失敗、自分の体を取り戻すのが戦う動機、ってのは実に後ろ向きだとかはじめ思っ…

みんな傍観者じゃ話がつまらねえ 『仮面ライダー剣』

ライダー、ヒーローといやこれだ。2年前の今頃「もはや正義も悪もない万人の万人に対する闘争」の『龍騎』は観てて落ち着かないが斬新さは認める、と書いた、去年の今頃、で、古典的な善悪図式を復活させた『555』は白々しく見えてしまう、と書いた。『剣』…

今度は逃げるな もう一度走れ! 『サムライダー』

ライダーといえば、連載で読んでなかった初期展開を第1巻購入して確認。少し前の『映画秘宝』すぎむらしんいちインタビューで、これまでギャグでウヤムヤにしてた点を振り切り、今回はシリアスで行くと語ってた志は大いに好感。が、すぎむら漫画王道の「格…

Jヤンキーの愛国心 『凶気の桜』

反米とか右翼とか憂国といえば、今さら、前から気になってた『凶気の桜』(主演:窪塚洋介/監督:薗田賢次)やっと観る。井上三太の漫画みたいなJスキンヘッドだけど古典東映ヤクザ映画のテイストを踏襲。少々極端だが、こういう心性の若者、現実いてもお…

論壇誌 同盟国の大衆 国民の義務

『諸君!』「世界〈嫌ブッシュ〉同盟は「華氏911」度で燃え尽きたか」中西輝政論考、「ブッシュはアホそうだが同盟国の指導者が偉すぎるのは困る」(大意)というブッシュ肯定論の視点は珍しい。でもあくまで日米同盟堅持の枠内なのは逆説的に戦後平和主義左…

地面とお天道様の必要性 『わしズム Vol.12』

既にあちこちで書かれてるけど、浅羽通明、宮台真司、宮崎哲弥、香山リカの揃い踏みは壮挙。バランスは良い。ゴー宣EXTRAと浅羽論考、「天皇家一族自身の人格は無視されてきたが、そういうシステムにわれわれは乗っかってきた」という天皇制批判でも擁護でも…

時間がねえが書かねえと忘れちまう

これまでの怠惰のせいもあって急に忙しくなってきたが、日々考えたこととか忘れんよう自分用覚え書きメドレーで、少々こじつけ気味ながらしりとり風に。

半端な悪党 矛盾する行動のリアルさ

『藪の中』の盗賊多襄丸は、殺しも強姦もやるだろう悪党だが、(状況的には彼のせいでも)直接殺したわけでもないかも知れない相手のことを自分が殺したと言ってみたり、悪党なんだからエゴイスト一辺倒でもない、どこか自分で自分の悪事の範囲を意識した人…

矛盾こそ世の中のあるべき姿?

論理的整合性のオチなどつかないブラックボックス小説といえば、こないだ初めて芥川龍之介の小品『藪の中』を読んだ(この歳まで、どんな話かは知ってたけど未読でした)。※以下ネタバレ注意。盗賊の多襄丸は「夫婦者を襲って女の方をレイプして夫の方と決闘…

ブラックボックスを意識する神の目

昨今の物語表現の悪い癖の一つは、何でも自己言及的に説明しすぎることだ、とか言われ紀里谷和明監督の『CASSHERN』もそう評されてたのを目にしたが、先日西尾維新を読み始めても少しそう思った。 『クビキリサイクル』を読んだ段階では、話の舞台となる「鴉…

ジャンク民営資本主義は人工的には育たず

パルテノン多摩の中には、地元の歴史を展示するミュージアムがあった。昔この地域では竹細工産業が盛んで、ザルなどが造られていたという――と、いうことは、この地には、かつては山窩(サンカ)の里があったのだろうか? ミュージアムはそこまでは伝えてない…

武蔵野シベリアの多摩グラード

確か10年ちょっと前にどこぞの映画館の押井守特集イベントで、押井守による世界最初のOVA『ダロス』(実は未見)に出てくる未来都市のモデルは、多摩ニュータウンだと聞いたような記憶がある。いや笑い話じゃない、多摩センター駅周辺の、モノレールが走…

匿名の群衆に紛れられる空間がなさそうな街

野暮用あって多摩センターへ。京王線で調布から西なんて行く機会はなかったから、新宿から30分そこいらでこんな山も森林もある土地に来られるとは知らなかったんで少し感心。 確かに空気は良さそうで、目も休まりそうだ、が、(住人には悪いが)こういう郊外…

「空虚な中心」を探して

那須きのこ『空の境界』上下巻やっと読了。 人為により世界の摂理に反する行為には必ず自然の「抑止力」が働くという発想とか、人格というのは脳の知識情報だけでなく肉体(による差し替え不可な経験、経歴、人間関係環境etc)で成立するものなのだ、とかい…

他者同士自衛が義務の国、均質化が義務の国

「おい、おれたちを撃つんじゃない!」 「なんだと?」 「おれたちを撃っちゃいかん、でないと、こっちも応戦するぞ! ジョージ・オーウェル『カタロニア讃歌』 先日、木曜洋画劇場でマイケル・ムーア『ボウリング・フォー・コロンバイン』を観て改めて思っ…

で、毎度のこじつけを

そんなことを考えながら翻って考えてみたのは、わが国が満洲事変から大東亜戦争に進んでいった時の国民感情はどんなもんだったろうか? ってことだ。 当時の日本は911テロのようなわかりやすい明確な先制攻撃は受けてないが、ロンドン、ワシントン軍縮条約で…

ビッグ・ブラザーを作ってるのは

さて、ではこの映画、どうだったら公平、公正な映画と言えたろうか? プロパガンダを「らしく」見せるのに有効なテクニックのひとつは「とりあえず相手の言い分も取り上げてみること」かと思える。 ブッシュとその戦争の支持者として出てきたのは、ブッシュ…

まず、個人的に引っかかった点いろいろ

観はじめて痛感したのは「ブッシュという人物は実にマヌケそうな顔の映像が多い」ということだった。当然、ムーアはマヌケそうな映像を特にセレクトしたんだろうし、逆にアメリカ大本営は格好よく見える映像ばかりをセレクトしてるだろう。また、ブレアでも…

来週のずばり9/11上映は込むかな?

と、いうわけでやっと『華氏911』を観てきた。要約すっと、この映画の内容はだいたい―― (1) ブッシュ大統領の一族は、長年に渡って、石油ビジネスでビン・ラディン一族およびサウジアラビア居王室関係者と大の仲良しで利益を得ていた。 (2) イラク戦争では、…

事情はかの国も同じなんだろうかなあ……

――にしても、前から思ってたことだが、当然、日本だけでなく他の国も同じく戦後60年も経つわけで、中国、韓国などで盛んに反日を唱えてる人たちだって(両国には公式的な反日教育があり、特に支那には歴史的に「華/夷」という差別概念が強くあるにせよ)ほ…

陰湿な差別や排除をなくすには強権しかない?

皮肉な話、毛沢東も周恩来も健在で、中国共産党の独裁権力が末端まで行き届いていた時代の方が、公式的には日中友好ムードが(よそよそしい仮面のものであれ)維持されてた。 http://d.hatena.ne.jp/gryphon/20040807 結局、かつての「米帝国主義は日中共同…

関係が深まればこそ不満も溜まる

先日、地下鉄の駅でゲットした『R25』を読んでたら、同誌名物の各業界ショートコラムの「R×R」コーナーに「急速に豊かになる一方で、中国には失業者が溢れている?」という記事があった。 曰く、昨今のサッカーアジアカップでの中国サポーターの反日ブーイ…

あえて「出る杭」になる 勝てへん戦いの意味

結局、わたしより10歳近く若い滝本は実は一回転して王道だ、という印象を得たが、さて我が同世代、一頃はやれ「団塊ジュニア」とか騒がれた1970年前後生まれは何をやっとんじゃ? とか思う(既に述べた通り、東浩紀先生(1970年生)の言う「動物化」には、わ…

親父は70年代で既に終わってた

長谷川和彦監督の新作『連合赤軍』がずっと撮影開始もできず難儀してる。わたしは、今あえて連合赤軍の映画を撮るなら、彼らは国家権力・父権・天皇制とかに負けたんじゃない、市民社会に負けたんだ(というか自滅だが)、そう描かなきゃダメだ、と思ってる。…

敵に税金払って生きてるのかも知れない僕ら

敵はいないわけじゃない。ただ、物凄く見えにくくなってるし、戦い難いだろうが。 前々回の『忘却の旋律』で、こんな話が描かれてた。 この物語では、世界は既に敵の手に落ちてる、大人の代表たる総理大臣は、国民の多数を守るため、既に人類を支配してる敵…

何度でも繰り返されるよくある話

前回も書いたけど、先日、某畏友が「エヴァンゲリオン後10年の表現(って、特にオタクジャンル表現だな)」というテーマを提示してから、いろいろ考えてて、今回のこれもその覚え書きみたいな物。 やっぱり80年代初頭生まれのアタシとしては大江の「遅れてき…

目標としては「対等萌え」(今のとこ無理そうだが)

ラブコメ漫画でもギャルゲーでも、話を発動させる第一歩として、相手との間にギャップやハンディキャップがある、ってのは、物語の仕掛けとしてはそりゃ燃える(あと、忠誠心に基づく自己犠牲とかってのも個人的好みでは燃えるが)。けど、見ず知らずの両人…

関係の形は変わる。それが成長だろ、と

わたしにも現実の妹はいます。しかも10歳ばかりも歳が離れてる。妹が小さい頃は周囲の要請でよく遊んでやった(そんなんより部屋で一人で漫画読んだり友人とやってた特撮同人誌の原稿でも描いてたかった)。当時妹が可愛いという感情はあった。でも、そりゃ…

なんで「妹萌え」にだけは嫌な違和感があるのか

前にも書いたが、メイドさん萌えとか看護婦さん萌えとか、眼鏡萌えとか、ってのは、別に嫌な感情は無い。それらは職業だったり、外見の記号だ(別にふたなりでも猫耳でも車椅子でも良い)。が"兄と妹"ってのは関係の形、シチュですな。 だいたい、職業とか、…

できれば対等になりたい。今は力不足だが

先週からの感慨で「敵は国家権力とかなんかじゃない、他ならぬ俺ら自身を生かしてる市民社会自体と骨がらみだ」って説を書こうと思ってたけど、bakuhatugoro氏たってのリクエストがあるんでそっちを先に回す。